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大阪地方裁判所 平成5年(ワ)3653号 判決

大阪府八尾市弓削町南二丁目二八-三

原告

有限会社造形企画

右代表者取締役

岡田修

右訴訟代理人弁護士

大石一二

大阪市中央区本町橋二番一六号

YKビルディング

被告

株式会社日装

右代表者代表取締役

山田進

右訴訟代理人弁護士

大江篤彌

右訴訟復代理人弁護士

本渡諒一

鎌田邦彦

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求の趣旨

一  被告は、別紙物件目録の「被告商品」欄記載の円柱、装飾柱、角柱、象鼻を製造、販売又は頒布してはならない。

二  被告は、原告に対し、金三〇〇〇万円及びこれに対する平成五年五月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

四  仮執行の宣言

第二  事案の概要

一  当事者の営業

1  原告は、昭和四九年に設立された店舗・ディスプレイの企画・設計・施工を業とする有限会社である(甲第二号証、原告代表者、弁論の全趣旨)。

2  被告は、服飾関係の新聞・雑誌の発行、パンフレット・スタイルブックの製作代行、建材の販売等を業とする株式会社である(甲第四号証、証人今西崇浩、弁論の全趣旨)。

二  原告商品の製造、販売状況と原告商品の形状、模様、図柄等

原告は、原告代表者の個人営業時代の昭和四七年頃から、ギリシャ彫刻、ギリシャ建築等の古代彫刻や古代建築の形状、模様、図柄等を模したFRP(Fiberglass reinforced plastics繊維強化プラスチック。ガラス繊維、炭素繊維などをプラスチックで固めて成型したもの)製の装飾柱、円柱、角柱、象鼻(以下「装飾柱等」という。)、その他特別注文品の内外装用装飾建材を製造、販売している(甲第二号証、原告代表者。そのうち、別紙物件目録の「原告商品」欄記載の装飾柱等を、以下まとめて「原告商品」という。)。

原告商品の形状、模様、図柄等は、別紙物件目録添付の「原告の商品(原告の平成四年度のカタログ 甲第二号証)」のカタログコピー記載のとおりである(甲第二号証、弁論の全趣旨)。

三  原被告間の業務提携契約とその解消

原告と被告は、昭和五九年三月七日付の「FRP建材(ニッソーアートデコレーション)の販売についての覚え書」(甲第三号証、乙第四号証。以下「本件覚え書」という。)に基づきFRP建材の製造、販売に関して業務提携契約をしたが(争いがない。)、平成三年に入って原告の申出により右業務提携契約は解消された(証人今西崇浩、原告代表者)。

四  被告商品の製造、販売状況と被告商品の形状、模様、図柄等

被告は、平成三年一月頃から、原告とは無関係に、ギリシャ彫刻、ギリシャ建築等の古代彫刻や古代建築の形状、模様、図柄等を模したFRP製の装飾柱等、その他特別注文品の内外装用装飾建材を製造、販売又は頒布している(甲第四号証、証人今西崇浩。そのうち、別紙物件目録の「被告商品」欄記載の装飾柱等を、以下まとめて「被告商品」という。)。

被告商品の形状、模様、図柄等は、別紙物件目録添付の「被告の商品(被告の平成四年度のカタログ 甲第四号証)」のカタログコピー記載のとおりである(甲第四号証、弁論の全趣旨)。

五  請求

原告は、被告商品の形状、模様、図柄等は原告商品の形状、模様、図柄等と同一であるか又は酷似しており、被告が被告商品を製造、販売又は頒布する行為は、原告が時間、労力、費用を費して獲得した財産的価値のある成果を模倣盗用する行為であり、民法七〇九条の不法行為を構成すると主張して、被告に対し、被告商品の製造、販売及び頒布(侵害行為)の停止並びに原告商品の売上高減少による逸失利益三九六〇万円の内金三〇〇〇万円の賠償(一部請求)及びこれに対する不法行為後の日である平成五年五月八日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

六  争点

1  被告が被告商品を製造、販売又は頒布する行為は不法行為を構成するか。

2  前項が肯定された場合、被告が原告に対し賠償すべき損害の額。

第三  争点に関する当事者の主張

一  争点1(被告が被告商品を製造、販売又は頒布する行為は不法行為を構成するか。)

【原告の主張】

原告商品の形状、模様、図柄等のデザインは特に意匠登録を受けているわけではないが、原告商品は原告が長年にわたり製造、販売してきたものであり、そのデザインにおいて独創性と新規性を有する商品であるから、原告が原告商品を製造、販売する行為は、取引社会において法的に保護されるべき営業活動であり、被告が原告商品と形状、模様、図柄等が同一又は類似の被告商品を製造、販売又は頒布する行為は、民法七〇九条の不法行為を構成する。

1 原告商品は、ギリシア彫刻、ギリシア建築等の古代彫刻や古代建築の伝統的様式を参考にしながらも、単なるその模倣にとどまらず、時間や費用を費して、独自に柱頭、柱、礎盤等の各部の形状、模様、図柄等や右各部の組合せを変更するなどして創作した全体としてオリジナリティのあるデザインの商品であって、FRP製装飾柱等の業界において、他に原告商品と同じデザインを施した商品は存在せず、独創性と新規性を有し、付加価値のある商品である。

被告は、原告商品を含め各業者のFRP製装飾柱等は酷似しており、原告商品のデザインには新規性、独創性がない旨主張する。確かに、原告以外にも同様のFRP製装飾柱等を製造、販売している業者は多数存在するが、同じようなFRP製装飾柱等であっても、形状、模様、図柄等が同一であったり、酷似しているデザインを施した商品は一つとして存在しない。被告の主張を前提とすれば、他社が独自に創作したデザインを施したFRP製装飾柱等であっても、同業者はいわゆるポン抜き(既存の製品から凹型を取って同じ製品を作ること)さえしなければ、それを模倣して同じデザインの装飾柱等を製造、販売したとしても違法ではないということになるが、もしそのようなことが許されるとするならば、どの業者も自ら時間、労力、費用をかけて新しいデザインを創作する努力をしなくなり、業界全体の秩序が著しく混乱するだけでなく、業界全体の発展もなくなることは容易に予想しうるところである。したがって、いずれの同業者も、ギリシア彫刻、ギリシア建築等の古代彫刻や古代建築の伝統的様式を参考にしながらも、他社の商品とは異なる独自のデザインを施して商品を創作しており、それがFRP製装飾柱等の商品のオリジナリティーというべきものであって、業者は互いに各自の商品のデザインの独自性を尊重し、他社商品と瓜二つの商品を製作するといった酷似的模倣行為は決して行っていないのである。

東京高等裁判所平成三年一二月一七日判決(知的財産権関係民事・行政裁判例集二三巻三号八〇八頁)は、いわゆる木目化粧紙発行差止等請求控訴事件について、「民法第七〇九条にいう不法行為の成立要件としての権利侵害は、必ずしも厳密な法律上の具体的権利の侵害であることを要せず、法的保護に値する利益の侵害をもって足りるというべきである。そして、人が物品に創作的な模様を施しその創作的要素によって商品としての価値を高め、この物品を製造、販売することによって営業活動を行っている場合において、該物品と同一の物品に実質的に同一の模様を付し、その者の販売地域と競合する地域においてこれを廉価で販売することによってその営業活動を妨害する行為は、公正かつ自由な競争原理によって成り立つ取引社会において、著しく不公正な手段を用いて他人の法的保護に値する営業活動上の利益を侵害するものとして、不法行為を構成するというべきである。」と判示している。

また、平成五年五月一九日に全面改正された不正競争防止法(平成五年法律第四七号)は、二条一項三号において、他人の商品の形態を模倣した商品を流通に置く行為を不正競争行為として規定し、これに対する差止請求権及び損害賠償請求権を認めている(同法三条、四条)。右改正不正競争防止法の立法趣旨は、商品のデザインが意匠権等の工業所有権によって保護されていなくとも、商品化のために投下された労力、資本等の営業利益は、競争者から保護されねばならないとするものであり、それらの労力や資本をかけて商品化された商品のデザイン(その創作的価値を問わないものと解されている。)は十分に法的保護に値するものであることを認めているのである。

2 被告は、原被告間の業務提携契約が解消された平成三年一月頃以降、寸法や模様等のデザインの細部に至るまで寸分違わぬ完全な原告商品の模倣品である(極端に言えば僅かなキズまで同一である)被告商品を製造、販売しているのであり、そのことは、原告商品のカタログ(甲第二号証)と被告商品のカタログ(甲第四号証)を見比べれば明らかである。このような完全な模倣品は、原告商品を直接転写(ポン抜き)する以外には製作が不可能である(甲第一六号証の1~4)。被告が被告商品の製作を依頼しているという株式会社紋郎美術工房作成の報告書(乙第一六号証)には、「カタログと寸分違わずに制作しております。」、「当社は実物見本或いは写真と正確な図面さえあれば、実物と変わらぬ物を作る技術を持っております。」との記載があるが、右記載は虚偽である(甲第一七号証、第一八号証)。どのような商品でも、寸法や模様等の細部に至るまで寸分違わぬ物を作るのは神のみの為せる業であり、いかに株式会社紋郎美術工房の技術力が高いとしてもそれは到底不可能なことである。

このことは、以下の事実からも裏付けられる。

すなわち、被告は、平成二年五月から平成三年三月にかけて原告商品を株式会社紋郎美術工房に直接送付するよう原告に依頼したことがあるが、これは、同社と被告が原告商品をポン抜きするための準備行為であったと思われる(甲第二〇号証)。

被告商品のパルテノンR-一六二(別紙物件目録「被告商品」欄一(14))と原告商品のイオニア三〇〇G(同目録「原告商品」欄一(14))のキャピタル(柱頭)の複雑な模様部分をスライドフィルム(検甲第一号証~第四号証)に撮って透視照合すれば、両者は細部にわたるまで完全に一致している(甲第二一号証の1~5)。

また、被告商品のアテネR一六一(別紙物件目録「被告商品」欄一(13)。対応原告商品はコリント三〇〇G〔同目録「原告商品」欄一(13)〕)及びアテネR一〇三(同目録「被告商品」欄一(19)。対応原告商品はコリント二〇〇G〔同目録「原告商品」欄一(19)〕)に、それぞれ、原告の所有する対応原告商品の凹型枠を当てはめると(検甲第五号証~第一〇号証)、複雑な花弁の細部に至るまで完全に収っている(甲第二二号証の1~3。なお、右の被告商品を御影石調から白色に塗り替えたのは、写真撮影に際し凹凸面を明瞭にするためである。)。

被告は、これに対して、僅かな部分で差異があるとか僅かな隙間があると述べ、極めて枝葉末節的な差異を強調するのみで、真正面から反証を挙げようとしない。

3 仮に被告商品が原告商品のポン抜きによって製作されたものではなく、被告が主張するように業務提携中の商品に少しでも近づけようとして型を作って製作したものであったとしても、被告商品は、微細な部分の形状、模様、図柄等を僅かに変更しただけの原告商品の完全な模倣品(いわゆるデッドコピー)であり、前記のとおり原告が時間や費用を費して創作した原告商品のデザインは法的に保護されねばならないから、被告が右のように原告商品の完全な模倣品である被告商品を製造、販売又は頒布する行為は不法行為を構成する(被告がギリシア彫刻、ギリシア建築等の古代彫刻や古代建築を参考にして独自の形状、模様、図柄等を創作してFRP製装飾柱等を製造、販売することは自由であり、原告の容喙し得ることではない。)。

4 被告は、原告は被告との業務提携契約により、「被告が製造した被告の商品」とすること、すなわち当該商品の形状、模様、図柄等はすべて被告のものとすることに同意したのであって、右同意は原告の一方的申入れによって業務提携契約が解消された後も当然に維持継続されるべきものであり、そして、これらの商品について被告は多額の費用をかけて宣伝広告に努め、既に世間では被告の商品であることが周知となっているから、被告が被告商品を製造、販売又は頒布するのは当然であり、原告にはこれを禁止する何の権利もない旨主張する。しかしながら、以下に詳述するとおり、被告が原告商品と形状、模様、図柄等が同一又は類似の商品の製造権を取得したことはないから、被告の右主張は失当である。

すなわち、原被告間で昭和五九年三月七日付で取り交わされた本件覚え書は、表題どおり「販売についての覚え書」であって、それまで原告商品の製造から販売までの一連の事業を単独で行ってきた原告が、製造部門と販売部門を分離して事業のさらなる発展を図るため、被告に対して販売部門への協力を要請し、単に原告商品を被告が販売元として販売する権利を定めたものにすぎず、原告商品を製造する権利を被告に与えたものではないし、ましてや、原告が被告の下請として原告商品を製造するという関係を定めたものではない(なお、本件覚え書は、被告が一方的に作成して原告に送付してきたものであって、原被告の署名押印がなされていないことからも明らかなように、その記載内容の細かい事項のすべてが合意された正式な契約事項というわけではない。)。原告は、被告と本件覚え書を取り交わす以前からFRP製装飾柱等の商品を製造、販売しており、商品開発に努力を傾注し多大な費用を投下してきたのであるから、原告が、何らの対価も伴わずに自己の有する原告商品の製造権を被告に譲渡したり、被告が自己の商品として原告商品を製造、販売することに同意を与えることはありえない。原告が、被告の下請となったり、被告が自己の商品として原告商品を製造、販売することに同意を与えたのであれば、被告自身が起案した本件覚え書にその旨明記されていてしかるべきであるが、そのような趣旨の記載は全く見られない。

被告は、「ニッソー・アート・デコレーション」という商品名が付されていたことを根拠に、原告から原告商品の製造権を取得した旨主張するが、原告商品は一種のOEM商品(相手先ブランド商品)とされているにすぎず、右商品名が付されているからといって、被告が当然に原告商品の製造権を取得するとはいえない。

また、被告は、本件覚え書に「製造・販売元…株式会社日装」の記載があることを被告主張の根拠とするが、本件覚え書には右記載の直後に続けて「カタログ上では、(有)造形企画は日装の製作部という形になっているが、実際面では造形企画が製造を担当する。」として右記載の趣旨を再度確認しており、これは、原告が被告の製作部という形をとるのはあくまで対外的な関係についてだけであり、対内的には製造権が原告に帰属したままであることを被告自身が認めていたことを意味している。また、被告から原告宛てに送付してきた「貴殿『通告書』について」と題する書面(乙第三号証)でも「当社FRP事業は、製造は有限会社造形企画、宣伝・販売は株式会社日装と云う分業態勢で事業を拡大、お互いの繁栄を期すことを共通の目的としてきました。」と記載しており、被告自身が宣伝、販売する権利しか有していなかったことを認めている。そもそも、下請関係とは、元請又は親会社の指示に基づいて下請業者が商品の製造を請け負うものであるが、本件は、原告が独自に企画開発し、製造、販売していた商品を被告が販売するという関係なのであるから、正確には製造業者と販売業者の関係又は外注関係というべきものである。

5 被告は、需要者から商品についてクレームが頻発した旨主張するが、それは原告の技術力ではなく、被告のFRP製品についての専門的知識の欠如と対応の悪さに起因するものである。

原告が被告との業務提携契約の解消を申し入れたのは、いつまでも被告がカタログによる注文を受けてこれを原告に伝えるだけで利益を上げるというブローカー的な商売のやり方をしていては、原告のみならず被告にとってもFRP製品の事業が発展しないと考えたからである。

なお、原被告間の業務提携関係が一定期間継続していたからといって、被告が原告商品の製造権を取得するものでないことは当然である。

また、原被告間の平成三年二月一九日における話合いの内容は、業務提携契約を解消しようというものであって、原告が企画、製造してきた原告商品を被告が製造することを許諾したというものではない。

【被告の主張】

被告が被告商品を製造、販売又は頒布する行為は、以下の理由により不法行為を構成しない。

1 原告と被告が製造、販売しているFRP製装飾柱等の形状、模様、図柄等は、公知のギリシア彫刻、ギリシア建築等の古代彫刻や古代建築の形状、模様、図柄等を模倣し、あるいはそれに僅かな改変を加えたものにすぎず、意匠登録を受けられるような類の新規性、独創性のあるデザインではない(その製造方法も、ガラス繊維で強化したプラスチックを型に張り込んで硬化せしめ、型から取り外して製造するという、極めて簡単なものであり、特別の権利性を主張し得るようなものではない。)。したがって、被告が原告商品と形状、模様、図柄等が同一又は類似の被告商品を製造、販売し又は頒布したとしても、右行為に酷似的模倣の法理を適用する余地はない。

酷似的模倣の法理を適用するためには、当該商品のデザインが特異性のある新規かつ独創的なものであることが必要であるところ、原告商品のデザインには前記のとおり新規性、独創性はなく、いずれも単にギリシア彫刻、ギリシア建築等の古代彫刻や古代建築のデザインを模倣したものにすぎない。原告が妻と二人でFRP製装飾柱等の製造販売を始めたころには、FRP製装飾柱等の専門メーカーとして、ボーマン美術装飾株式会社(昭和三八年創業、本社守口市)、株式会社ミカミ(明治四二年創業、本社東大阪市)、ジャパンインテリア株式会社(昭和四七年創業、本社大分市)、有限会社百海樹脂加工(本社京都府)、株式会社紋郎美術工房(昭和四五年創業、本社大和郡山市)、能登高分子工業株式会社(昭和三六年創業、本社石川県)等の業者が存在していたが、いずれもその製品の基本的形状・模様はギリシア彫刻やギリシア建築を模倣したものである。そして、FRP製装飾柱は、台座、その上の柱及び柱の上に載せる柱頭(キャピタル)の三点の部材で構成され、この三点の部材のそれぞれに形状、模様、図柄等が施されるので、各業者は、それらの形状、模様、図柄等と右三点の部材の組合せを色々変えることで商品の多様化を図っている。つまり、それらの形状、模様、図柄等には取り立てていうほどの特徴がなく、敢えて特徴というならば、ギリシア的ということに収斂せざるをえないものであるから、時と所を異にして離隔的に個別の商品を観察した場合、デザインだけで各商品を識別することは至難の技である。したがって、原告商品を含め各業者のFRP製装飾柱等は酷似しており、同業者でさえ当該商品を見ただけでは、それがどの業者の製造、販売にかかる商品であるかを識別するのは困難である。

本件は、原告援用の木目化粧紙発行差止等請求控訴事件についての東京高裁判決の事案とは異なる。すなわち、同判決がいうような、原告が原告商品に創作的な模様を施しその創作的要素によって営業活動を行っている場合には該当せず、また同判決が認定しているような、被告商品の廉売が行われ、そのために原告商品の価格が値崩れし、値下げをせざるをえなくなったといった事実は認められない。原告と被告はもともと被告によるFRP製装飾柱等の製造、販売に原告が製作部として協力してきたという関係にあり、原告の営業活動に被告が後刻妨害的に参入したという関係にはないし、原告商品の販売方法は縁故関係を頼っての直売方式であるのに対し、被告商品の販売方法はカタログを全国に配布して注文を取る注文受注方式であるから、原被告の営業活動や販売地域は互いに競合していない。さらに、被告は原被告間の業務提携契約の解消後、従来のカタログ販売を継続するために、右業務提携中に製造販売権を有していた商品を被告独自で販売しているにすぎないのであるから、被告が被告商品を製造、販売又は頒布する行為をもって、取引社会において、著しく不公正な手段を用いて他人の法的保護に値する営業活動上の利益を侵害するものと評価すべきではない。

2 のみならず、原被告間の業務提携契約により、業務提携中に製造、販売されていた商品のデザイン、形状、規格、サイズ等はすべて被告の所有となったのであり、右商品は被告自身の商品である。

原被告間の業務提携契約は、

〈1〉 被告の商品として被告が命名した商品名を付して販売する、

〈2〉 原告は被告の製造部門として製造に従事する、

〈3〉 原告が従来から有する取引先については、右取引先からの受注生産販売を可とするが、カタログ掲載商品についてはカタログ記載の定価で販売しなければならない、

という内容のものであって、右契約において被告は対外的にも対内的にもあくまでも製造者であり販売者であった。

すなわち、原告と被告との関係は、対内的協議文書である本件覚え書に記載されているように、被告は「製造・販売元」、原告は「被告の製作部」というものであり、商品は製作部(原告)において製造を担当するけれども、需要者との関係では原告は一切表面に出ることはなく、被告が製造者でありかつ販売者であることを原告は了解していたのである(そのことは乙第一一号証の宣伝用カタログの裏表紙に原告の記載はなく、単に原告の引越前の住所を「製作」の所在地として表示していることからも理解できる。)。このように、原告と被告の合意内容は、原告は単に被告の製造下請として関与するものであり、したがって、原告が製造するFRP製装飾柱等はあくまでも被告の商品とするというものであった。

右乙第一一号証の最初に発行した宣伝用カタログの作成に際しても、商品名は、右カタログ作成前に原告が既に命名していたもの(「コロネード」「リネンホールド」「ダイヤパネル」を除いて被告がすべて決定し、品番はすべて被告が決定し、カタログの表題も、「ニッソー・アート・デコレーション」と被告の商号の一部を冠したのである。被告は、右カタログを五〇〇〇部作成し、昭和五九年三月末頃東京晴海の国際見本市会場で開催された日本経済新聞主催の建材展示会「ジャパンショップ」において、ニッソー・アート・デコレーション商品を展示し、右カタログを配布するなどして商品の宣伝広告に努めた。平成二年までに右宣伝広告やその他新聞雑誌への広告掲載に被告が支出した費用は合計四五八五万二七五八円にも及んでいる。

その結果、商品の売上げは次のとおり順調に伸張していった。

〈1〉 昭和五九年三月から昭和六〇年三月末まで 三三一〇万三九四八円

〈2〉 昭和六〇年四月から昭和六一年三月末まで 三六二六万二七一〇円

〈3〉 昭和六一年四月から昭和六二年三月末まで 五四六二万四六五〇円

〈4〉 昭和六二年四月から昭和六三年三月末まで 七八七一万八五五〇円

〈5〉 昭和六三年四月から平成元年三月末まで 九一三四万二五四七円

〈6〉 平成元年四月から平成二年三月末まで 一億三八三四万八三五八円

ところが、次第に需要者から商品についてクレームが頻発するようになったので、被告は原告に対し品質管理の改善等について口頭で何回も申入れをし、その都度原告は了承したが、事態は改善せず、その後平成三年二月一九日の原告の一方的申出により、原被告間の業務提携契約は解消されるに至ったのである。

3 確かに、被告商品の最初の製作型は原告が所有していたものから製作したものではあるが、前記のとおり、原告は、被告との業務提携契約により、「被告が製造した被告の商品」とすること、すなわち当該商品の形状、模様、図柄等をすべて被告のものとすることに同意したのである。右同意は、原告の一方的申入れによって業務提携契約が解消された後も当然にその効力が維持継続されるべきものである。そして、これらの商品について被告は多額の費用をかけて宣伝広告に努め、既に世間では被告の商品であることが周知となっている。したがって、被告が被告商品を製造、販売又は頒布するのは当然のことであり、原告にはこれを禁止する何の権利もない。それどころか、原告が被告商品と形状、模様、図柄等が同一又は類似の商品(原告商品)を製造、販売又は頒布することは、既に周知性を取得している被告商品の名声にフリーライドする違法な行為というべきである(原告は今なお被告のカタログをそのまま複製して使用しており、被告の命名に係る「コロニアル」、「ミネルバ」、「ツイスト」、「ロマーノ」、「ドウリア」、「プレーン」、「MD四〇三」~「MD四〇八」等の商品名を被告に無断で使用している。)。まして、前記2のとおり原告の一方的申出により原被告間の業務提携契約が解消した後において、被告が長い年月と費用をかけて達成した成果を原告が否定することを許すのは、原告を不当に利得させるだけでなく、被告に多大な損害を被らせる結果となる。

したがって、仮に、原告に何らかの権利があるとしても、それは長年の業務提携契約を何の理由もなく一方的に、しかも被告の期待を裏切る形で解消した原告の背信的行為に基づき生じたものであるから、そのような権利の行使は、権利の濫用ないしは信義則違反行為に該当し、許されない。

4 原告は、被告商品は原告商品をポン抜きして製作したものである旨主張するが、被告は被告商品製造用の型の製造を株式会社紋郎美術工房に依頼し、同社はポン抜きによらないで型を製作したのである(但し、仮に原告主張のとおり被告商品が原告商品のポン抜きによって製作されたものであったとしても、そのことによって原告の本訴請求が正当化されるわけではない。)。

原告提出の検甲第一号証ないし第四号証のスライドフィルムを比較すると、多くの部分では一致しているが、例えば渦巻きの右側の下方に三本伸びる隆起状において僅かな部分で差異があるのを看取することができる。多くの部分で形状、模様、図柄等が一致しているのは、株式会社紋郎美術工房が原被告の業務提携中に被告の商品として販売されていた装飾柱等の形状、模様、図柄等に少しでも近づけようとして型を製作した当然の結果であり、僅かな部分で差異があるのはとりもなおさず同社がポン抜きによらないで製作したからである。

また、検甲第五号証ないし第一〇号証の写真についても、もともと被告商品は業務提携中の商品と同じ形状になるように製作したのであるから、被告商品が原告所有の型に収るのは当然のことであるが、下部においては型と商品がピッタリと嵌合しているものの、中段部においてはこの嵌合に僅かな間隙があることは、被告商品が原告商品のポン抜きでないことの証拠というべきである。さらに、検甲第五号証ないし第一〇号証の写真に撮影されている商品はもともと御影石調に塗装してあるところ(乙第三二号証二八頁)、白色に塗り替えられている。形状の酷似性だけを証明するためであればこのように塗り替える必要はなく、FRP製品は、製品になってからでもヤスリ、サンドペーパー、パテ、樹脂等を使用して簡単に形状を変更することができるから、このような手を加えたものには証拠価値がない。

二  争点2(被告が原告に対し賠償すべき損害の額)

【原告の主張】

原告と被告が業務提携をしていた当時、被告から毎月三三〇万円程度のFRP製装飾柱等の製造依頼の注文があったが、被告が被告商品の製造、販売を開始した平成三年一月以降は被告からの注文は全くなくなった。原告がFRP製装飾柱等を製造、販売した場合の利益率は約四〇%であるから、原告は、被告の不法行為により、平成三年一月から平成五年六月までの三〇か月の間に次の算式のとおり合計三九六〇万円の得べかりし利益を喪失した。

3,300,000×0.4(利益率)×30(月)=39,600,000

【被告の主張】

被告の得意先と原告の取引先とは競合しておらず、被告が原被告間の業務提携契約解消後に被告自らの得意先と取引をすることが原告主張の得べかりし利益を喪失せしめるはずはないのであって、被告の右取引行為と原告主張の損害との間には因果関係が全く存在しない。

第四  当裁判所の判断

一  まず原告は、民法七〇九条に基づき、被告商品の製造、販売又は頒布の停止を求めるが、民法七〇九条は、不法行為の効果として損害賠償請求権の発生することを認めるにとどまり、差止請求権の発生はこれを認めていないのであるから、不法行為によって侵害された権利が排他性のある支配的権利である場合にその排他性のある支配的権利に基づき侵害行為の差止を求めることができることは格別、民法七〇九条自体を根拠にその行為の差止を求めることはできないというべきである。

したがって、右のような排他性のある支配的権利ではなく、民法七〇九条自体を根拠に被告商品の製造、販売又は頒布の差止を求める原告の請求は、それ自体失当というほかなく、不法行為の成否について判断するまでもなく、理由がないというべきである。

二  以下、不法行為を理由とする原告の損害賠償請求の関係で、争点1(被告が被告商品を製造、販売又は頒布する行為は不法行為を構成するか。)について判断する。

1(一)  証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(1) 原告商品や被告商品のようなFRP製装飾柱等は、前示のとおりギリシア彫刻、ギリシア建築等の古代彫刻や古代建築の形状、模様、図柄等を模したFRP製の内外装用装飾建材のことであるが、FRP製装飾柱等のFRP製品は、〈1〉原型(粘土、木、石膏等で形状、用途に合う原型を作る。)、〈2〉雌型(シリコン樹脂、FRP等により原型から雌型を作る。)、〈3〉張り込み(ポリエステル樹脂とガラス繊維を雌型に張り込み積層する。)、〈4〉脱型(樹脂が硬化してから製品を雌型から外す。)、〈5〉バリ取り、仕上げ(製品のバリを取り、樹脂パテで補修を施して、サンドペーパーをかける。)、〈6〉塗装(製品の表面を塗装する。)という過程で製作される(甲第五号証四七頁)。

したがって、FRP製品は、一旦雌型を作ると、これを利用して同じ製品を大量に複製生産することが可能であるとともに、既存の製品からポン抜きをすることも比較的簡単である。

また、FRP製品は、各部の寸法が必ずしも精密機械のように正確かつ一律に決まっているものではなく、仕上工程等において設計図上の寸法と差異を生じる可能性は避け難い。

(2) ギリシア彫刻、ギリシア建築等の古代彫刻や古代建築の形状、模様、図柄等は、我が国においても、例えば、〈1〉アレクサンダー・シュペルツ著、毛利登編訳「装飾のスタイル」(昭和四九年八月二八日株式会社東京美術発行。乙第七号証の1~16)、〈2〉Joseph Beunat著「EMPIRESTYLE DESIGNS AND ORNAMENTS(王室スタイルのデザインと装飾)」(乙第一七号証の1~3)、〈3〉フランツマイヤー著、毛利登編訳「装飾のハンドブック」(株式会社東京美術発行。乙第一八号証の1・2)、〈4〉C. B. GRIGSBACH著「HISTORIC ORNAMENT A PICTORIAL ARCHIVE(歴史的装飾図集)」(乙第一九号証の1~3)等内外の多数の文献に掲載されて広く知られており、極めて優れた様式美を構成するものとして全人類の文化的遺産となっている。

そして、原告商品の形状、模様、図柄等は、それが製作される以前からあった右ギリシア彫刻、ギリシア建築等の古代彫刻や古代建築の形状、模様、図柄等に比して、どこがどのように異なるのか、特有の創作的デザイン要素は何であるか、その創作性の内容を具体的に確定できるだけの資料はない。

(3) 原被告以外の同業者のFRP製装飾柱等のカタログである甲第一九号証(ホクストン)、乙第二一号証・第二九号証(ジャパンインテリア株式会社)、乙第二二号証・第三一号証・第三四号証(株式会社ミカミ)、乙第二三号証・第三〇号証・第三三号証(ボーマン美術装飾株式会社)、乙第二四号証・第三二号証(株式会社サン・ラメール大阪)、乙第二〇号証・第二八号証(イタリア・Grassi Vittorio & Figlio)によれば、前記の内外の文献に掲載されているギリシア彫刻、ギリシア建築等の古代彫刻や古代建築の形状、模様、図柄等を模したFRP製装飾柱等の商品が多数存在していることが認められ、それらの同種商品を時と所を異にして離隔的に観察したとき、一般の需要者が商品の外観に基づく印象、記憶、連想等から各商品を識別することはほとんど不可能であると認められる。そして、原告発行のカタログ(甲第二号証)に基づき、原告商品の形状、模様、図柄等を右同業者の同種商品の形状、模様、図柄等と対比しても、原告商品の形状、模様、図柄等は、客観的、外形的には同種商品と概ね同一又は類似のものであって、特段これといった特徴は見出し難い。

(二)  右認定の事実によれば、原告商品は、専ら観賞の対象として美を表現しようとするいわゆる純粋美術ではなく、産業用に量産される実用品であることが認められる。したがって、原告商品の形状、模様、図柄等が民法七〇九条による保護の対象になるものがあるとすれば、それは内外装用装飾建材として使用されるときの見た目の美しさだけでなく、それとは別に、これを見る一般人の美的感興を呼び起こし、その審美感を満足させる程度の美的創作性を有するものでなければならないと解するのが相当である。

しかして、原告は、原告商品は、ギリシア彫刻、ギリシア建築等の古代彫刻や古代建築の伝統的様式を参考にしながらも、単なるその模倣にとどまらず、時間や費用を費して、独自に柱頭、柱、礎盤等の各部の形状、模様、図柄等や右各部の組合せを変更するなどして創作した全体としてオリジナリティのあるデザインの商品であると主張するが、確かに証拠(原告代表者)及び弁論の全趣旨によれば、原告商品の開発には一定の時間や労力を費したことが窺われるものの、前示のとおり、原告商品の形状、模様、図柄等は、右伝統的様式の形状、模様、図柄等に比して、どこがどのように異なるのか、特有の創作的デザイン要素は何であるか、その創作性の内容を具体的に確定できるだけの資料はなく、同業者の同種商品の形状、模様、図柄等と対比しても、客観的、外形的にはこれと概ね同一又は類似のものであって、特段これといった特徴は見い出し難く、これを見る一般人の美的感興を呼び起こし、その審美感を満足させる程度の美的創作性に乏しいものといわざるを得ない。

原告は、被告商品は寸法や模様等のデザインの細部に至るまで寸分違わぬ完全な原告商品の模倣品であり、原告商品を直接転写(ポン抜)する以外には製作が不可能である旨主張する。確かに、前認定のとおり、既存の製品からポン抜きをすることは比較的簡単であるところ、別紙物件目録添付の「原告の商品(原告の平成四年度のカタログ 甲第二号証)」のカタログコピーと「被告の商品(被告の平成四年度のカタログ 甲第四号証)」のカタログコピーを対比すれば、被告商品が原告商品を直接転写したものであるとする原告の主張も全く理由がないものではないように思われるが、被告商品は株式会社紋郎美術工房が原被告の業務提携中に被告の商品として販売されていた装飾柱等の形状、模様、図柄等に少しでも近づけようとして型を製作したものである旨の被告の主張及びこれにそう乙第一〇号証の記載に加え、原告が右主張の裏付けとして提出している各証拠(甲第一六号証の1~4、第二一号証の1~5、第二二号証の1~3、検甲第一号証~第一〇号証)は、いずれも多数の原告商品と被告商品のうちのごく一部の商品につき、しかも、複雑な形状、模様、図柄等によって構成されるそれらの商品のごく一部分の形状、模様、図柄等に限ってデザインを対比したものにすぎないことに照らし、右各証拠から直ちに被告商品をもって原告商品を直接転写(ポン抜き)した完全な模倣品(いわゆるデッドコピー)であるとまで断じることはできない。

2(一)  また、証拠(甲第一、第三号証、乙第二ないし第四号証、第九ないし一四号証、第二五号証の1~7、原告代表者、証人今西崇浩)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(1) 原告と被告は、昭和五三年頃、被告が開催した毛織物関係のコンテストのためのFRP製ディスプレーの製作を原告に依頼したことから関係ができ、原告が被告に対し、原告がホテルやパチンコ店に施工した装飾柱等の原型があるとしてこれを利用した装飾柱等の販売につき協力を求めていたところ、被告は、種々検討の結果、昭和五九年頃、原告に協力することを決めた。

そこで、原告と被告は、FRP建材(装飾柱等)の製造、販売に関し業務提携の話合いをし、まず、被告において、東京晴海で開かれる建材展示会「ジャパンショップ」に出展するために、原告が製作した装飾柱等の写真を掲載したカタログ(乙第一一号証)を八〇〇万円以上の費用をかけて約一万部作成したうえ、契約書の代わりに原告と被告の間の合意事項を明らかにするものとして同年三月七日付の本件覚え書(FRP建材〔ニッソーアートデコレーション〕の販売についての覚え書)を作成した。

(2) 本件覚え書によれば、商品名は「ニッソー・アート・デコレーション」で、対外的に「製造・販売元」は被告とされ、「カタログ上では、原告は被告の製作部という形になっているが、実際面では原告が製造を担当する」ものとされ、販売方法としては、総代理店(株式会社環境開発センターを予定していた。)又はその特約店による販売、カタログを中心とした被告による直接販売、被告が遠隔地などに限って設定する地区限定代理店による販売、原告による従来の取引先に対する受注販売(カタログ掲載商品については規定の金額による。)が考えられていたが、予定されていた右株式会社環境開発センターは総代理店とならなかった。被告が作成したカタログにおいては、業務提携中も一貫して原告の名前が明記されることはなく、前記昭和五九年度版(乙第一一号証)では、被告の本社・東京・中部の住所・電話番号と並んで「製作」として原告の旧工場の住所・電話番号が、昭和六一年度版(乙第一二号証)では、被告の本社の住所・電話番号等及び東京・中部の電話番号と並んで「造形企画部(工場)」として原告の住所・電話番号が、昭和六四年(平成元年)度版(乙第一三号証)では、同様に「造形企画部(工場)」として原告の住所がそれぞれ掲載されていたが、平成二年度版(乙第一四号証)ではそれも掲載されていない。

原告と被告の業務提携中、原告は、被告が原告からFRP装飾柱等を仕入れる値段を上げてくれるよう求めた。しかし、被告は、同業者との競争を理由に応じず、逆に、原告に対し、被告の受注した製品を原告が製造する納期の遅れ、品質などについてクレームが多発しているとして改善を申し入れ、昭和六三年四月には、被告の受注したパチンコ店の大型レリーフの原告による製造が納期に間に合わないということで、被告が代わりに株式会社紋郎美術工房に製作を依頼したこともあったため、同年五月には、書面により原告に対し、納期の厳守、品質の向上、工場の態勢を整えるための人材の確保等を申し入れた。

(3) 原告は、被告の仕入れ値段が低額に過ぎるし、また、特に特別注文品の売上げが増加しないのは被告のFRP製品についての専門的知識の欠如により営業活動に支障があるためであると考え、平成三年二月一九日に至って、被告に対し業務提携契約の解消を申し入れ、今後は原告・被告双方が分離独立して事業を続行する旨話し合い、原被告間の業務提携契約は合意解約の形となった。

同月二六日、原告は、被告に対し、分離独立の条件として、一年後の平成四年四月一日以降、被告は原被告の業務提携中の商品・使用例を被告のカタログに掲載しないこと及び原告は平成四年三月三一日まで被告に商品を提供するが、被告はノルマとして月額二〇〇万円以上の発注を保証することを通告書(乙第二号証)で申し入れ、同通告書に被告の承認印を求めた。これに対し、被告は、同月二七日付書面(乙第三号証)により、品質の保証・納期の厳守・原告による取付け工事の施工・特別注文品のデザインの向上・クレームの適切な処理について原告が誓約しなければ発注金額の約束はできないとして、原告に誓約書の提出を求めた。しかし、原告は右誓約書を提出しなかったので、被告も右通告書に承認印を押捺しなかった。

そして、被告は、以後、前記株式会社紋郎美術工房を中心に、その他マミー工芸等にFRP製品の製作を依頼しており、平成三年中は併せて原告にも製作を依頼していたが、平成四年以降は原告に製作依頼をすることはなくなった。

以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(二)  右認定事実によれば、原被告の業務提携契約及びその解消の話合いにおいて、原告が被告に対し業務提携中のFRP製装飾柱等の商品(原告商品)の製造権を明示的に与えたとまではいい難いとしても、被告は、右業務提携契約において、少なくとも対外的には原告の製造する商品の製造・販売元として営業活動をすることが合意され、現に多額の費用を投じてカタログを作成するなどして営業活動をし、原告と協力してFRP製装飾柱等の商品の製造、販売の事業を行ってきたのであるから、業務提携契約の合意解約後も、業務提携中に販売してきた商品(原告商品)についての被告の利益も考慮されるべきものである。

3  以上説示の原告商品の創作性の程度及び原被告の業務提携契約の内容に、被告において殊更被告商品を廉価で販売し、そのために原告商品も値下げせざるをえなかった、というような事実も認めるに足りる証拠が存しないことを併せ考えれば、少なくとも被告が被告商品を製造、販売又は頒布する行為をもって原告に対する不法行為を構成するものということはできない。したがって、不法行為を理由とする原告の損害賠償請求も理由がないといわなければならない。

三  よって、原告の本訴請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 水野武 裁判官 本吉弘行 裁判官小澤一郎は転補につき署名押印することができない。 裁判長裁判官 水野武)

物件目録

原告商品(括弧内は甲第二号証の頁数) 被告商品(括弧内は甲第四号証の頁数)

一 円柱 一 円柱

(1) エンタシスドウリア三〇〇EG(二九頁) (1) エンタシスガロR-一四二(九頁)

(2) エンタシスコリント三〇〇EG(二九頁) (2) エンタシスモリッツR-一四一(九頁)

(3) エンタシスイオニア三〇〇EG(二九頁) (3) エンタシスラールR-一四三(九頁)

(4) エンタシスコロニアル二二〇E(三〇頁) (4) エンタシスコロニアルR-一三八(一〇頁)

(5) エンタシスコロニアルE(三一頁) (5) エンタシスヴィラR-一三四(一二頁)

(6) エンタシスコリントE(三一頁) (6) エンタシスカスルR-一五五(一二頁)

(7) エンタシスイオニアE(三一頁) (7) エンタシスデマウスR-一五六(一二頁)

(8) エンタシスコロニアルEG(三二頁) (8) エンタシスナポリR-一三三(一一頁)

(9) エンタシスコリントEG(三二頁) (9) エンタシスロレンソR-一三五(一一頁)

(10) エンタシスイオニアEG(三二頁) (10) エンタシスブリーネR-一三六(一一頁)

(11) フォンテイン三〇〇G(三五頁) (11) ポンペイR-一二〇(一四頁)

(12) ドウリア三〇〇G(三六頁) (12) ハドソンR-一六〇(一五頁)

(13) コリント三〇〇G(三六頁) (13) アテネR-一六一(一五頁)

(14) イオニア三〇〇G(三六頁) (14) パルテノンR-一六二(一五頁)

(15) フォンテイ二五〇G(三七頁) (15) ポンペイR-一〇五(一六頁)

(16) コリント二五〇G(三八頁) (16) アテネR-一七一(一六頁)

(17) イオニアミネルバ(三八頁) (17) ミネルバR-一〇一(一七頁)

(18) ペデスタル二〇〇G(三九頁) (18) ハドソンR-一八〇(一八頁)

(19) コリント二〇〇G(三九頁) (19) アテネR-一〇三(一八頁)

(20) イオニア二〇〇G(三九頁) (20) パルテノンR-一八二(一八頁)

二 装飾柱 二 装飾柱

(1) ツイスト二〇〇(四〇頁) (1) リバーツイストR-一一五(一九頁)

(2) ツイスト一五〇(四〇頁) (2) ツイストR-一一四(一九頁)

(3) スモールキャピタル一五〇(四〇頁) (3) バースR-一〇四(一九頁)

三 角柱 三 角柱

(1) ギリシャノン六〇〇スクエアー(四二頁) (1) アクロポリスS-二二二(二〇頁)

(2) ペデスタル二〇〇スクエアー(四二頁) (2) リンカーンS-二〇三(二一頁)

(3) ペデスタル一五〇スクエアー(四二頁) (3) リンカーンS-二〇一(二一頁)

(4) 壁面用極薄形スティック三〇〇(四二頁) (4) グレコD-三〇五(二三頁)

四 象鼻 四 象鼻

(1) オーロラ(四四頁) (1) シバ(二七頁)

(2) レスコ(四四頁) (2) スリム(二七頁)

(3) カーン(四四頁) (3) ビック(二七頁)

原告の商品

(原告の平成四年度のカタログ甲第二号証)

Entasis

〈省略〉

Entasis

〈省略〉

〈省略〉

Entasis

〈省略〉

〈省略〉

Column

〈省略〉

〈省略〉

Column

〈省略〉

〈省略〉

Ornament

〈省略〉

Square Pillar

〈省略〉

Square Pillar

Ornament Bracket

Shell

〈省略〉

Chandelier Panel

〈省略〉

被告の商品

(被告の平成四年度のカタログ甲第四号証)

Entasisエンタシス

〈省略〉

Entasisエンタシス

〈省略〉

entasisエンタシス

〈省略〉

〈省略〉

Column円柱

〈省略〉

〈省略〉

Column円柱

〈省略〉

〈省略〉

Column円柱

〈省略〉

Ornament装飾柱

〈省略〉

Square Pillar角柱

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

Ornament Bracket象鼻

〈省略〉

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